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皆さまに今伝えたい、知ってほしい財団からのメッセージ
2018.07.13

いつものように、知らないうちに

2018年7月、西日本を中心に発生した豪雨の被害に遭われた方々に、心からのお見舞いを申し上げます。

 

災害が起きる直前、次のようにこのシンライノコトバを書き始めていました。

 

***

 

今の日本人の多くは、情報を集めるのが好きである。
そして、何か事が起きるとまた場当たり的に情報を集めては、最適な手段を選ぼうとする。
これは、最善の方法になっているだろうか。
 
戦後から73年、全体主義の軍国主義に懲りて、戦後は個々の自由が唱えられてきた。
 
しかし、組織構造は、全体主義から引き継がれた中央集権が、縦割りの機械的な効率化を続けているため、部分の効率化が進み、部分最適で社会が動いている。
 
そこで、部分最適の情報や意見が飛び交い、それを拾い上げて判断をし、大局的な状況に気がつかず、「知らないうちに計画が進んでいた」という意識が蔓延し、状況への反応しかできない社会になる。
 
全体主義の成り立ちを研究し、戦時下大量殺人を行ったアイヒマンの裁判を追うことで、ナチズムを産んだ市民や役人の思考停止状態の危険を表した『エルサレムのアイヒマンー悪の陳腐さについての報告』の著者である哲学者ハンナ・アーレントは、
世の中を変えようとする「革命家のヒロイズムにごまかされることなく、彼らが『人間のリアリティに対して無感覚になった』ことをみるべきである」と述べている。
また、彼女は、
「権力は人びとの承認を得て成立するもの。権力が必要とするのは正当性」
「(人々は)嫌いな人の真実よりも、好きな人の嘘を好む」
「悪は悪人が作り出すのではなく、思考停止の凡人が作る」
とも述べている。
 
機械的な組織効率を優先して、部分最適にしか目が行かなくなった日本の現状を指しているようでもある。
「いつものように、知らないうちに」人々は時代に流され、社会に流されていく。
 
部分最適ではなく、この複雑で極大化した社会の全体最適をどう見出していけば良いのか。
 
囲碁の言葉に「大局着眼、小局着手」というものがある。
大局を見極め、方向性を定めてから、最適手段を実行するという意味である。
 
時代や社会を観察し、部分最適の情報を洞察し、法則性や原理性を見出し、その科学性から仮説を導き出し、全体最適を判断していく仕組みが必要である。
常に思考し続けることによって、社会幸福の共感を持つ小さな共同体という自治が育ち、こうした小さな共同体が自律しながらネットワークしていくことで、自己組織化できるその仕組になるのではないかと考えている。
 
そうなれば、「いつものように、知らないうちに」とはならないはずだ。
 
***
 
以上のように書いていて間もなく、数日続いた豪雨によって大きな災害が起きました。
現2018年7月10日時点で、死者が160人余り、不明者が50人以上、避難者が1万人以上と報じられています。
 
まずは目の前の復興支援でできることを探して動きながら、「どうしたら被害が最小限に食い止められたのか」「天災の非常に多い日本の中にあって、安全ではないけれど安心して暮らしていけるようになるにはどうしたら良いのか」という思考を止めずに続けていきます。
 
そうでなければ、また知らないうちに、いつものように、災害のあとに多くの命が失われたり傷ついたりしたことを知り、「私たちは棄民のような扱いを受けている」と絶望していく人が増える状態を繰り返すと考えているから。
 
 
2018年7月
理事長 熊野英介